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ドレーシャイベ   (Drehscheibe)

 

 

「ドレーシャイベ」とは、ドイツ語で360度グルリと回る回転盤を指します。

このページは、スイスから日本へ、そして日本からスイスへと情報を回し届けるドレーシャイベです。

 

1989年、スイスに居を定め、以来、友人・知人の新しいネットワークが徐々に広がって、さまざまな活動をしている人々と知り合うようになりました。ドイツ語圏スイスで使われている手話を習い出してからは、とりわけ社会福祉への関心が高まってきました。そしていつしか、こんなふうに思うようになったのです。

 

― もしかしたら、私がいままでに得てきた情報を必要としている人がほかにいるかもしれない ―

― 同じ活動を完全に取り入れられなくても、その情報が何かのヒントになるかもしれない ―

 

この思いは、私が出版翻訳を始めたきっかけでもあります。このドレーシャイベが何かの媒介になれば、こんなにうれしいことはありません。

 

 

            

 

第一回として、このページを立ち上げるきっかけとなった団体をご紹介します。

 

 

「障害者をもつ家庭の負担軽減に向けた奉仕」

 

手話コースの仲間の中には、社会福祉関係で活動をしている人がたくさんいます。その中の一人、ドリス(Doris)は9年前から障害児をもつ家庭を訪れて、子どもの面倒を見続けています。面倒を見るといっても看護ではなく、数時間を一緒に過ごして、その間、家族が息抜きをできるようにしてあげるのです。ですから、彼女は特にこれといった福祉関係の資格をもっているわけではありません。

 

彼女が属している団体は「チューリヒ州で障害者をもつ家庭の負担軽減サービス協会 (Entlastungsdienste für Familien mit Behinderten im Kanton Zürich, 称EFB)」といいます。もともとは、ご近所の方などが数時間障害児を預ってお母さんに自由な時間をつくってあげるなど、善意から生まれた活動でした。その善意は年月の流れとともに大きく輪を広げ、2003年には347人の奉仕員が390の家庭の負担軽減に関与しています。そして今年、2004年6月 にこの協会は創立20周年を祝いました。

 

それでは、EFBの仕組みを簡単に説明しましょう。

各奉仕員には世話人がついており、経験のない人もしっかりと支えてくれるバックアップ体制が整っています(チューリヒ州を4つに分割)。この世話人は居住地域に根を下ろした人脈の広い人で、チューリヒ州には全部で5人います。彼女たちは(現在は全員女性)自分の住む地域で奉仕員となれそうな人をハンティングし、そのあとはその奉仕員の相談相手となります。

奉仕員は最高で週8時間、週末は1ヶ月に1回のみ、各家庭で障害児とともに時間を過ごします。毎回違う家族を訪れるのではなく、この奉仕員にはこの家庭、というふうに決まっています。ドリスの場合は、2年程前からろうを含む多重障害の男の子(現在9歳)と、今年からダウン症の女の子(現在9歳)の2家庭を受けもっています。2家庭ともドリスの家の近所に住んでおり、お互いにいい関係を築いているようです。

奉仕員に対する報酬はあまり高くはありませんが、まったくのボランティアというわけでもありません。おそらく、まったく無報酬だと人が集まらないのでしょう。また、いくらかでもお金をもらっているのでむやみと無責任な行動は取れない、とドリスは言います。一方、障害者をもつ家庭の方は、それぞれの支払能力に応じて奉仕員への報酬を支払うことになっています。これはまた、障害者年金の受取額によっても変わってきます。

 

次に、EFB2003年の年次報告書から統計をご紹介しましょう。

 

   障害者の年齢

   7歳以下                     113人(28%                         1時間かけてジュースを飲むメレットとドリス

   8歳以上18歳未満        236人(56%

   18歳以上                     67人(16%

 

      障害の種類

   知的障害                    96人(47%

   聴覚障害                    22人(5%

   身体障害                    28人(31%

   疾患による障害          49人(12%

   精神障害                      3人(0.7%

   視覚障害                    13人(3.3%

   言語障害                      5人(1%

   合計                         416

          うち多重障害            123人(29%

 

 

のサービスは家庭訪問だけではなく、障害者が病院に行かなければならないときの同伴などにも利用されています。重度の障害者もいるわけですから、奉仕員はやはり普通のお手伝いさんとは違う「覚悟」が必要なようです。

 でも、「こちらから差し出すものもたくさんあるけど、返ってくるものはそれ以上!」とドリスは目を輝かせています。

 

 

「盲聾者の付き添いボランティア」

 

手話のコースは終わってしまいましたが、今回も当時のクラスメートが行っている活動を紹介したいと思います。 彼女の名はウルズラ(Ursula)、通称ウルズィ(Ursi)。2001年から盲聾、つまり目も耳も不自由な方々の付き添いをボランティアで行っています。

 

このボランティア活動は「スイス視覚障害者中央協会(Schweizerischer Zentralverein für das Blindenwesen、略称SZB)」の盲聾課が中心になって行っています。付き添いが必要な人は協会へ連絡をし、協会から付き添い人のところへと連絡が入ります。付き添い人はまったくのボランティアで、協会から支払われるのは交通費などの必要経費のみです。そんなまったくのボランティア、それも決して容易ではないボランティアにいったいどれくらいの方が参加しているのだろうと思い、ウルズィに聞いてみましたが、残念ながらそこまではわかりませんでした。

(追記:視聴覚障害者をアシストする「コミュニケーション・アシスタント」養成コース(「瑞筆」ページの5月21日を参照)でSZBについての説明があり、それによると2004年現在で130人のボランティアが登録、合計12,000時間の活動を行っています)

 

ボランティアとはいえ、やはり誰でもできる仕事ではありません。付き添い人はまず、協会のソーシャルワーカーによって適正を吟味され、その後、基礎教育を受けます。そこで、ローム(Lorm)という手のひらの特定部分に触れることによってアルファベットを伝えるコミュニケーション方法も学びます。活動を始めてからも教育は続き、毎年さまざまなコースが提供されています。

 

今年の1月から約1ヶ月、ウルズィは盲聾の女性に頼まれて、彼女に付き添ってオーストラリアに行ってきました。この盲聾の女性ドリス(Doris)は大のカンガルー好きで、これまでにももう何十回となくオーストラリアへ行っています。ドリスはアッシャー症候群(視界が狭く、ほぼ真ん中しか見えない)を患っており、以前は聴覚に障害があっただけでしたが、いまでは視覚も不自由になってしまいました。

 

 

 

 

 

ところが、彼女のカンガルー好きはそんな障害などものともしません。学者も顔負けの研究を続け、カンガルーに関する書籍まで出版しています。そんな彼女が今回オーストラリアで訪ねた先は、同じくカンガルーの専門家とも呼べる女性でした。ドイツから移住してきた動物園の飼育者だったマルギット(Margit)は、クイーンズランドのエサトン・テーブルランド(Atherton Tableland)地方に住みながら、傷ついた動物たちの看護をし、また野生に戻れるように世話をしています。ここにはツリーカンガルーという、いまでは希少になった木に登るカンガルーも生息しており、マルギットが経営するロッジでも彼女にとてもなついたツリーカンガルーが寝起きをともにしています。(http://www.users.bigpond.com/lumholtzlodge/)

       

マルギット宅でカンガルーにえさをあげるドリス

 

今回の旅はSZBの斡旋ではなく個人的に頼まれたもので、ウルズィは旅費以外すべて自己負担で同行してきました。ほとんどつきっきりなのでかなりたいへんだったようですが、一人では行かなかっただろうと思われるような場所をたくさん訪れ、 動物を愛する素晴らしい人々ともたくさん知り合い、ドリスと二人でとても楽しい旅をしてきたようです。

 

手前からドリス、マルギット、ウルズィ。コミュニケーションは触れること。

  

 

「コミュニケーション・アシスタント」

 

2006年春、スイスに新しい職業が生まれました。この日、1年間のコースを終えたピカピカのコミュニケーション・アシスタントたちは、全員顔をほころばせながら修了証書を受け取りました。総勢21名の中にはろう者や聴覚障害者もいます。そして、日本人も一人。そう、私も晴れてコミュニケーション・アシスタントの資格を得ることができました。

 

    

        5人ずつ修了証書と花束を受け取る            全員揃った写真。でも、私は人陰に隠れて見えない…。ちぇっ

 

さて、それではこの新しい職業、コミュニケーション・アシスタント(略称KA)について少し説明しましょう。

 

私たちKAを雇うのは視覚聴覚障害者の方々です。現在、視覚聴覚障害者の随伴や周囲とのコミュニケーションはおもに家族や上記の付き添いボランティアの方々が無料で引き受けています。でも、ボランティアだとやはり遠慮がつき物。家族の随伴では、自分の意志を通せないことも多いかもしれません。

 

現在、スイス連邦政府は障害者をホームから解放し、自立できる人には自立してもらおうというプロジェクトを推進中です。私たちの教育はそれに先立って行われ、KAを自分で選び雇うことを通じて視覚聴覚障害者の独立心を養い、自分でものごとを決定できる環境を整えることを目的としています。

 

障害者は私たちの顧客であり、お互い立場は平等です。「ここまで頼んだら申し訳ない」などと思う必要はありません。そして私たちKAも「これは私はしたくない」と思う内容であれば、断ればいいのです。

 

アッシャーシンドロームの方とは手話、聴力がある程度残っている方とは音声言語、視覚も聴覚もほとんど失っている人とはロームと呼ばれる手のひらを使ったコミュニケーション方法を採るなど、KAはさまざまな顧客に対し、さまざまなコミュニケーションを使って対応しなければなりません。また、誘導や客観的な周囲の状況の説明など、KAの責任は幅広く重大です。

 

来年はフランス語圏でもKA養成コースが開かれる予定です。まだまだ一般には馴染みのない職種ですが、全員パイオニアとしての自覚を持ち、障害者の自律性を尊重する社会づくりに一役買いたいと願っています。

 

    

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